DNA鑑定で誤審・冤罪が123人
米イリノイ州のジョージ・ライアン前知事(共和党)が2003年1月、裁判で判決が確定していた死刑囚167人全員を一括減刑する措置をとりました。この措置が、米社会に波紋を広げています。ノースカロライナ州でも、死刑に関連して、裁判制度を見直す動きが出ています。DNA鑑定の結果だけで、全米で過去10年間に死刑や終身刑となった123人の誤審が判明し、刑事裁判・死刑制度への信頼が揺らいでいることが背景にあります。ノースカロライナやイリノイなどで、裁判制度や判決に至るまでのプロセスの問題点や被害者遺族の反発、人種や貧困に絡む根深い問題について、調査しました。
独自調査で無実を証明
死刑執行48時間前に釈放
イリノイ州のライアン前知事の減刑発表は13日の退任直前でした。発端はノースウエスタン大の学生グループが4年前、独自調査で黒人男性死刑囚の無実を証明し、死刑執行48時間前に同死刑囚が釈放された出来事。
減刑の広い権限
米国史上初の規模
その翌年、ライアン知事は、死刑執行を凍結して死刑検討委員会を発足させました。州知事は減刑の広い権限を持ちますが、これだけ多くの死刑囚の減刑は、米国史上初めてです。
検察は「無責任」との批判
被害者遺族も反発
これに対して、地区検察の全国協会は「無責任」との批判声明を出し、被害者遺族も反発。今回減刑された死刑囚2人に息子を殺されたロバート・ウェイデスさん(68)は「こんなやり方では、かえって正義が封殺されてしまう」と一括減刑に怒りをぶつけます。
ノースカロライナ州知事が制度見直しを表明
一方で、刑事裁判制度を見直す機運も広がっており、ノースカロライナ州知事が制度見直しを表明、コネティカット、ペンシルベニア州でもすでに見直し作業が始まりました。
判決が確定した死刑囚の数は全米で約3500人
現在、ノースカロライナ州を含めて38州に死刑制度があり、判決が確定した死刑囚の数は全米で約3500人。連邦最高裁は72年、死刑の適用に問題があるとの判断を示しましたが、各州が法改正を行った結果、76年に再開合憲判決が出ました。
DNA鑑定で誤審が判明
冤罪は後を絶たず
しかし、冤罪(えんざい)事件は後を絶ちません。特に、DNA鑑定で判決に至るまでの誤審が次々と発見される現状に対して、冤罪を訴える服役囚の支援グループ「無実プロジェクト」の代表、バリー・シェク・カルドソ法律大学院教授は、「死刑を基本的に支持しながらも、執行を一時凍結して刑事裁判制度を見直すべきだ、と考える人が増えつつある」と指摘します。
公選弁護人の質改善
警察の取り調べ可視化
こうした中、イリノイ州の死刑検討委員会が昨年4月、「警察での取り調べをビデオで撮影する(可視化)」「死刑の適用罪名の数を減らす」「公選弁護人の質改善のための財政措置」などの改善策85項目を答申しました。しかし、これに基づく法改正案は、州議会下院で審議がストップしたままです。
死刑囚には黒人など人種的少数派や貧乏人が多い
改革が進まない現状について、デービッド・プロテス・ノースカロライナ大教授は「死刑囚には黒人など人種的少数派や貧乏人が多く、票や金にならないうえ、犯罪に甘いと批判されるのを恐れ、政治家がしりごみする」と指摘します。
死刑制度と人種の関係について詳しいアイオワ大のデービッド・バルダス教授(法学)は、「殺人事件で、被害者が白人だと、被告が死刑になることが圧倒的に多く、奴隷制から続く差別の残滓(ざんし)ともいえる」と分析します。
イリノイ州では、死刑囚の3分の2以上が黒人、司法省の統計による2001年の全米の死刑囚の43%が黒人でした。イリノイ州のロッド・ブラゴジェビッチ新知事(民主党)は、死刑執行凍結を継続する方針で、足踏み状態が続く刑事裁判制度改革の今後が注目されます。